【感想】様々な悲願が交差する物語【異世界迷宮の最深部を目指そう】

 割内わりないタリサによる、なろう小説異世界迷宮の最深部を目指そう』。 

オーバーラップ文庫より書籍化されており、イラストは鵜飼沙樹が担当。

この作品のなろうにありがちなタイトルあらすじから典型的な「なろう小説」だろうと感じ、読む意欲がわかないといった人もいるのではないだろうか。

今回はそれとは真逆の作品である、この『読者に鳥肌を立たせる表現力をもつ作品の感想を書いていきたいと思う。


作品のあらすじ

見覚えのない回廊で目覚めた相川渦波(アイカワ・カナミ)は、魔物から受けた傷をラスティアラという美少女に治療してもらい、ここが非常にゲーム的な異世界であることを知る。
カナミは優遇されたステータスやスキルを武器に、美少女剣士のディアと『どんな望みでも叶う』と噂される迷宮の最深部に向けて突き進んでいく――。

これは少年が迷宮の最深部(しんじつ)を暴き、願いを叶える物語。


当初私はこのタイトル、あらすじから特にこの作品に惹かれた部分はなかったのだが、なろう小説が書籍化され始めた黎明期、この作品がAmazonで評価が高かったという単純な理由が、この作品を読んだキッカケであった。そしてこの作品の評価が高い理由、物語の怒涛の展開、登場人物の信念とも言える生き様を読むことになる。

迷宮の最深部に到達するため、主人公の前には様々な困難が立ちふさがる。その障害がダンジョン攻略などではなく、複雑に絡み合った登場人物の思惑であるところが、この作品を面白いものにしている。そして物語が進むにつれて主人公は、世界の真実、迷宮の秘密、そして自分が今ここにいる理由を知っていく。


物語の主軸となる登場人物たち

この物語の登場人物はそれぞれ過去のしがらみ、使命、そして自分の悲願を持っている。

中でも迷宮の10階層ごとに現れる『守護者』。彼らは迷宮に囚われ、過去の『未練』に囚われた者たちである。物語の中で彼らは自らの未練を叶えるため、ときに主人公の行く手を拒み、それぞれの章の主軸となって物語を動かしてゆく。守護者1人1人が非常に練られた設定で作られており、次の守護者はいったいどんな設定を抱えているのかと、読者を非常に楽しみしてくれるほどである。

この作品を読んだことがある者は、それぞれ好きな守護者、好きな台詞が必ずあるだろう。中でも、私がこの作品を読み続けようと決めた最も好きな台詞が以下の台詞である。

「恋に破れたから身を引く?希望のない恋だから諦める?ありえない。恋とはそういうものではない。恋とはもっとどうしようもなくて、気が狂いそうになるものだ。届かなければ生きていても意味がない。だから心中したい。殺してでも奪い取ってやりたい。手段を選んでいられない、正気でなどいられない。それが、それだけがっ、『悲恋』こそがっ、本当の恋だ―――!!」

この作品はとにかく登場人物の心情を伝える表現が非常に秀逸であり、とてもラノベとは思えないほどである。この台詞にドン引きした者もいれば、私のように鳥肌がたった者もいるのではないだろうか。

ちなみにこの守護者の未練は「悲恋の成就」だと守護者自身も勘違いしているが、本当の未練は『なにも伝えられなかったこと』。以下のURLは、作者が登場人物たちの設定をまとめたものである。

http://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/281336/blogkey/687334/


Web小説とは思えない表現力

この作品ほど、物語を美しく描き、地の文で鳥肌を立たせる作品はないだろう。

中でも注目してもらいたいものの1つが章タイトル

例えば、守護者が階層宣言を行う章のタイトルを楽しみにしている者もいるのではないだろうか。

そして、英雄は十層に辿りつく。化け物は貴方をずっと待っていました。』

朋友は三十層まで来てくれた。ゆえに、剣は持ち主に貴方を選ぶのです。』

二十層の闇に少年は溶けてしまった。けれど、貴方が光を射しに来てくれた。』

章タイトルをここまで練った作品もないだろう。

守護者と対立する場面は、必ず上の文体で様々な表現を使った章タイトルにするため、これから読もうと考えている人は、是非物語を追って、もう一度その章タイトルを振り返りってもらいたい。

また守護者の章だけでなく、私が最も好きな章タイトルが『ハインという名の駒』

これは書籍版での改訂であり、web版では『騎士という名の駒』。

この章ではハインという騎士の独白にあたる部分なのだが、後にも先にも、これほど感嘆の声が漏れた作品の章タイトル、登場人物の独白はない。ハインという名の駒とは、いったいどういう意味が込められたのか。まだ読んだことがない読者には、絶対に読んでもらいたい章である。

この作品は異世界バトルものである一方で、作者の表現力の高さから、物語が非常に文学的側面を持っている。


書籍版とWeb版の違い

書籍版とWeb版どちらを読めば良いかと言われれば、私は断然書籍版をオススメする

書籍版では、物語の大きな変更はないが、文体の改訂が多くされており、7巻に至っては登場人物や内容が大きく加筆、改訂されている。

Web版自体も現在、作者自身が1章から改稿を始めている。

どうやら作者自身、あまりWeb版は納得していないようである。

書籍の購入を迷っている方は、そちらから(改稿版)読んでもいいかもしれない。

私は最初Web版から読み始めたのだが、Web版ではそれほど印象に残らなったシーンや台詞が、書籍版では鳥肌が立ったなどがあった。

3巻の表紙では、あったかもしれないもう一つの世界が描かれていたりと、書籍版ならではの表現などもある。


総評

この作品は、私の中では五指に入る名作である。

タイトルやあらすじからでは感じられないが、この作品は割とシリアスな展開が続く。

そのため、そういった作風が苦手な方にはあまり合わないだろう。

3巻の感想でも、少し内容がキツ過ぎてもう読めないといった感想も見られた。

主人公の周りはややハーレムよりな展開ではあるが、それが消え去るほどシリアスな展開も待っているため、ハーレムものが苦手な人もあまり気にならないだろう。

なろうにありがちな異世界転生のバトルものかと思いきや、登場人物の想いを重点に描いた、ラノベとは思えない、とても文学的な作品となっている。

作者から紡ぎだされる秀逸な文体、主人公に降りかかる様々な試練、登場人物それぞれの想い、そしてそこから描かれる怒涛の展開と登場人物の美しい生き様を、1人でも多くの人に読んでもらいたいと思う。

- 異世界迷宮の最深部を目指そう -

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